【解説】航空機へのレーザー照射:致命的な危険行為
▼ 発生した事案(概要)
日時: 12月16日 午後8時ごろ
場所: 静岡県裾野市上空(伊豆縦貫道 三島加茂IC付近からの照射)
対象: 陸上自衛隊 第1ヘリコプター団 CH-47JA(輸送ヘリ)
状況: 飛行訓練中に約10分間にわたり執拗に照射された。
結果: 乗員5名に怪我なし、機体損傷なし。
なぜ「レーザー照射」は極めて危険なのか
単なるイタズラでは済まされず、墜落事故に直結する殺人未遂に近い行為です。特に今回のケースは夜間(午後8時)であり、危険度は最大級でした。
1. 暗順応の破壊と「フラッシュ・ブラインドネス」
夜間飛行中、パイロットの目は暗闇に慣れています(暗順応)。そこに強力な光が入ると、一時的に視力を失います(フラッシュ・ブラインドネス)。視力が回復するまでの数秒〜数十秒間、パイロットは計器も外の景色も見えなくなります。
2. コックピット内の乱反射
レーザー光は風防ガラス(キャノピー)の傷や汚れで乱反射し、コックピット全体が発光したかのように光で満たされます。これにより、空間識失調(自分がどの姿勢で飛んでいるかわからなくなる状態)に陥り、墜落の危険が高まります。
3. NVG(暗視装置)への壊滅的影響
自衛隊の夜間訓練ではNVG(ナイトビジョンゴーグル)を使用することが一般的です。NVGは微弱な光を増幅するため、レーザーのような強い光が入ると「ブルーミング」と呼ばれる現象が起き、視界が完全にホワイトアウトします。今回のCH-47JAも夜間訓練中であったため、NVGを使用していた可能性が高く、非常に危険な状態でした。
過去の主な事例と法的責任
過去にも同様の事件が多発しており、逮捕者も出ています。
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2022年 沖縄県(海上自衛隊ヘリへの照射)
海上自衛隊のSH-60K哨戒ヘリコプターに対し、緑色のレーザー光が照射された事件。その後、威力業務妨害の疑いで会社員の男が逮捕されました。 -
2019年 東京都(米軍横田基地周辺)
米軍機に対しレーザーポインターで光を照射し、飛行を妨害したとして、威力業務妨害容疑で男が逮捕。自宅からは複数のレーザーポインターが押収されました。 -
2015年 大阪府(民間旅客機への照射)
大阪空港に着陸しようとしていた旅客機などにレーザーを照射した男が逮捕。航空法違反などが適用されるケースも増えています。
【法的措置】
これらの行為は「威力業務妨害罪(3年以下の懲役または50万円以下の罰金)」や「航空法違反(航空の危険を生じさせる行為)」に問われる重大な犯罪です。
これらの行為は「威力業務妨害罪(3年以下の懲役または50万円以下の罰金)」や「航空法違反(航空の危険を生じさせる行為)」に問われる重大な犯罪です。
レーザー照射は重大事案であり、スポーツでも厳しい処分
【解説】スポーツ界を脅かすレーザー照射:勝敗を歪める悪質行為
▼ スポーツにおける問題点
サッカーや野球など、多くの観客が集まるスポーツイベントにおいて、観客席から選手に向けてレーザーポインターが照射される事例が後を絶ちません。これは単なる「ファンのマナー違反」ではなく、選手の健康被害や試合結果の公平性を直接侵害する妨害行為です。
プレーへの影響と身体的危険性
航空機同様、スポーツ選手にとっても視覚は生命線です。一瞬の判断ミスが勝敗、あるいは選手生命に関わる怪我に繋がります。
1. プレースキック・投球時の視界妨害
サッカーのPK(ペナルティキック)やFK(フリーキック)、野球の投球動作中など、静止状態から集中力を高める瞬間に狙われるケースが多発しています。緑色のレーザー光が顔面を覆うことで、ボールや目標地点が見えなくなり、ミスの原因となります。
2. 網膜損傷のリスク
高性能なレーザーポインターは、短時間の直視でも網膜に火傷を負わせる威力があります。動いている選手であっても、目に光が入れば一時的な失明状態(フラッシュ・ブラインドネス)や恒久的な視力障害を引き起こす恐れがあります。
3. 試合の中断と没収試合
審判団が「試合続行不可能」と判断した場合、試合が中断されるだけでなく、ホームチーム(警備責任がある側)の没収試合(強制的な敗北)になる可能性もあり、チーム自体にも不利益をもたらします。
実際の被害事例
特に国際試合において、ホームの観客が相手チーム(アウェイ)の選手を妨害する目的で行われるケースが目立ちます。
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2024年 サッカーW杯アジア最終予選(バーレーン対日本)
2024年9月、リファーで行われた試合にて、日本代表の上田綺世選手がPKを蹴る直前や、国歌斉唱中に選手らの顔へ緑色のレーザー光が執拗に照射されました。上田選手は動じることなくゴールを決めましたが、協会はFIFA(国際サッカー連盟)へ報告を行いました。 -
2022年 サッカーW杯アフリカ予選(セネガル対エジプト)
PK戦までもつれ込んだ激闘において、エジプト代表のエース、モハメド・サラー選手の顔面が、観客席からの無数の緑色レーザーで完全に覆われる事態が発生。サラー選手はPKを失敗し、エジプトは敗退しました。この件に対しFIFAはセネガル側に約2,300万円の罰金を科しました。 -
MLB・プロ野球での事例
過去にはメジャーリーグや日本のプロ野球でも、投手や打者の目にレーザーが照射される事件が発生しています。これらは即座に警察沙汰となり、実行者が威力業務妨害等の容疑で特定・逮捕されています。
【処分と対策】
FIFAなどの統括団体は、レーザー照射を行った観客のいる当該国協会に対し、巨額の罰金処分や無観客試合などの重い制裁を科しています。また、実行者はスタジアムからの永久追放や刑事罰の対象となります。
FIFAなどの統括団体は、レーザー照射を行った観客のいる当該国協会に対し、巨額の罰金処分や無観客試合などの重い制裁を科しています。また、実行者はスタジアムからの永久追放や刑事罰の対象となります。