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2025.12.8 震度6強 後発地震注意情報とは?

大規模地震イベントにおける「48時間以内の続発リスク」に関する統計的および物理学的考察

大規模地震イベントにおける「48時間以内の続発リスク」に関する統計的および物理学的考察
―前震・本震シーケンスと応力伝播の観点から―

キーワード: 前震活動、本震続発確率、クーロン破壊応力変化、グーテンベルグ・リヒター則、熊本地震

【要旨】
本稿では、一般に流布されている「大地震発生後の2日間(48時間)はさらなる巨大地震に警戒が必要である」という通説について、過去の地震学的データおよび物理学的メカニズムの観点から検証を行う。特に2011年東北地方太平洋沖地震および2016年熊本地震における「前震-本震」の時間的相関に着目し、初期破壊イベントから主要破壊イベントへの移行期間としての48時間の有意性を論じる。統計的分析によれば、マグニチュード(M)6.0以上の地震が発生した後に、より大規模な地震が発生する確率は概ね5%〜10%程度とされるが、その発生間隔において「2日以内」という時間枠は、静的応力変化($\Delta CFF$)の即時的影響が最大化する期間として物理的な意味を持つ。本研究は、この「48時間の空白域」が防災行動においてクリティカルな意味を持つことを結論付けるものである。

1. 序論

地震予知が現代科学において依然として困難な課題である中、発生した地震の直後における「推移予測」は、減災において極めて重要な役割を果たす。特に、M7クラスの地震が発生した際、それが単独の「本震(Mainshock)」であるか、あるいはその後により巨大な地震を誘発する「前震(Foreshock)」であるかの判断は、初期対応における避難行動を左右する。

一般防災リテラシーにおいて「地震後の2日間は警戒せよ」という警句が存在するが、これは単なる経験則に留まらない科学的背景を有している。本稿では、過去の顕著な事例における時間的推移を分析し、なぜ「2日後」というタイムラインが特異点として扱われるべきかを、地震発生の物理モデルを用いて詳述する。

2. 過去の事例に見る「2日後」の相関

日本国内で観測された近年の巨大地震において、最初の顕著な破壊現象から、最大規模の破壊現象に至るまでの時間経過には、特筆すべき共通項が見られる場合がある。以下に代表的な2つの事例を挙げる。

2.1 2011年 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)

2011年3月11日に発生したMw9.0の超巨大地震であるが、この事象には明確な前駆的活動が存在した。

  • 初期イベント: 2011年3月9日 11時45分、三陸沖で発生したM7.3の地震。
  • 主要イベント: 2011年3月11日 14時46分、M9.0の本震発生。
  • 時間差: 約51時間(約2日強)

当時、3月9日の地震は最大震度5弱を観測し、津波注意報も発令されたため、多くの専門家および一般市民はこれを「本震」と認識した。しかし、結果としてこれはプレート境界の固着域を剥がすトリガー(前震)であり、約2日間の応力再配分を経て、本震破壊へと至ったのである。

2.2 2016年 熊本地震

内陸地殻内地震においても同様のパターンが観測されている。

  • 初期イベント: 2016年4月14日 21時26分、熊本県熊本地方で発生したM6.5(最大震度7)。
  • 主要イベント: 2016年4月16日 01時25分、同地域で発生したM7.3(最大震度7)。
  • 時間差: 約28時間(約1.2日)

この事例では、気象庁がいったん「4月14日の地震が本震」との見解を示唆した後の事象であったため、被害拡大の一因となった。この「約2日以内」という期間に、隣接断層帯への破壊伝播が進行した典型例である。

3. 物理学的メカニズムと統計的確率

3.1 クーロン破壊応力変化($\Delta CFF$)

ある地震が発生すると、周囲の地殻に応力の変化が生じる。これを定量的に評価する指標がクーロン破壊応力変化(Coulomb Failure Stress Change, $\Delta CFF$)である。$\Delta CFF$は以下の式で近似される。

$$ \Delta CFF = \Delta \tau - \mu' \Delta \sigma_n $$

ここで、$\Delta \tau$は断層面上のせん断応力変化、$\mu'$は有効摩擦係数、$\Delta \sigma_n$は垂直応力変化を表す。$\Delta CFF$が正の値(正の変化)を示す領域では、断層破壊が促進され、次の地震が発生しやすくなる。

大規模な地震(M7クラス以上)が発生した直後、周辺断層には急激な$\Delta CFF$の増加が生じる。この応力再配分が岩盤の破壊強度を超えるまでのタイムラグとして、数時間から数日というオーダーが物理的に成立し得る。特に、流体圧の拡散(Pore fluid diffusion)が関与する場合、その拡散時定数が数日オーダーとなることがあり、これが「2日後」のリスクを高める要因の一つと考えられる。

3.2 「大森・宇津公式」と続発確率

余震の発生頻度は、時間の経過とともに減少するという「大森・宇津公式」に従う。

$$ n(t) = \frac{K}{(t+c)^p} $$

ここで$n(t)$は発生率である。通常、$p$値は1.0前後をとる。これは、地震発生「直後」が最も活動が活発であり、時間が経つにつれて指数関数的にリスクが減少することを意味する。逆に言えば、最初の24時間〜48時間は、統計的に最も地殻活動が不安定な時期であり、別の断層の連動破壊や、より大きな破壊(本震)への移行確率が最大化する区間であると言える。

4. 統計的評価と「2日後」の特異性

世界の地震統計(Jones, 1985など)によれば、ある地震が前震である(=その後により大きな地震が発生する)確率は、地域や地質構造に依存するものの、概ね5%〜10%程度であるとされる。これは「90%以上の確率で最初の地震が本震である」ことを意味するが、防災の観点からは残りの10%のリスク(低頻度・高被害事象)を無視することはできない。

表1:大規模地震後の続発パターン分類
パターン 概要 代表例 2日以内のリスク
本震-余震型 最初の地震が最大。その後は減衰。 1995年 兵庫県南部地震 余震による家屋倒壊に注意
前震-本震型 最初の地震より大きな地震が続発。 2011年 東北、2016年 熊本 極めて危険(壊滅的被害)
群発地震型 同規模の地震が長期にわたり多発。 1965年 松代群発地震 長期的な警戒が必要

東北地方太平洋沖地震や熊本地震の教訓から導き出されるのは、「最初の揺れでダメージを受けた構造物は、強度が低下しており、その『2日以内』に来る同程度またはそれ以上の揺れに対して極めて脆弱である」という工学的リスクである。たとえ続発地震のマグニチュードが同程度であっても、建物倒壊のリスクは飛躍的に増大する。

5. 結論

過去の事例および地震物理学の知見を総合すると、「大地震は2日後に注意」という命題は、以下の3点において科学的合理性を有する。

  1. 事例的根拠: M9クラスの海溝型地震およびM7クラスの内陸直下型地震において、約2日(48時間)の間隔を置いて最大規模の破壊に至った明確な事例が存在する。
  2. 物理的根拠: 最初の破壊による静的応力変化($\Delta CFF$)および余効滑り(Afterslip)が隣接破壊核を成長させ、臨界点に達するまでの時間的猶予として数日程度の間隔は矛盾しない。
  3. 統計的根拠: 大森則に従えば、地殻活動は発生直後が最も高く、時間経過と共に減衰する。したがって、最初の48時間は確率論的に「次の事象」が発生する可能性が最も高いウィンドウである。

以上のことから、大地震発生直後の48時間は、単なる余震への警戒期間ではなく、「遅れてやってくる本震」の可能性を含んだ「フェーズ移行の臨界期間」として捉えるべきである。この期間においては、屋内への安易な立ち入りを避け、避難所等の安全な場所で推移を見守ることが、生命を守るための最も論理的な行動指針となる。

参考文献・引用元(主要なもの):
1. 気象庁地震火山部 (2016). 「平成28年(2016年)熊本地震」について.
2. Japan Meteorological Agency (2011). "The 2011 off the Pacific coast of Tohoku Earthquake".
3. Jones, L. M. (1985). "Foreshocks and time-dependent earthquake hazard assessment in Southern California". Bulletin of the Seismological Society of America.
4. Toda, S., Stein, R. S., et al. (2011). "Coulomb stress transfer".

後発地震注意報とは?

日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデルにおける「後発地震注意情報」の運用メカニズムと防災学的意義

日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデルにおける
「後発地震注意情報」の運用メカニズムと防災学的意義
― M7クラス発震後の確率論的リスク評価と社会実装 ―

キーワード: 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震、後発地震注意情報、先発地震、時間遅れ破壊、防災行動計画

【要旨】
2022年12月より運用が開始された「北海道・三陸沖後発地震注意情報」は、日本海溝および千島海溝沿いでマグニチュード(M)7.0以上の地震が発生した際、その後の巨大地震(M8クラス以上)の続発リスクが高まっていることを周知する新たな防災情報システムである。本稿では、過去の統計データ(世界の大規模地震カタログ)に基づき、先発地震発生後の7日間における後発地震の発生確率が平時と比較して約100倍に上昇するという科学的根拠を提示する。また、南海トラフ地震臨時情報との差異を明確化し、不確実性を伴う情報の社会実装における課題と、推奨される「1週間の事前避難準備」の妥当性について論じる。

1. 序論:制度設立の背景

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)は、その2日前に発生した三陸沖地震(M7.3)が、結果として「前震」であったという事実を突きつけた。当時、M7.3の地震に対して津波注意報が発表されたものの、その後のM9.0への連動破壊を予見し、社会的な警戒態勢を維持する仕組みは存在しなかった。

この教訓から、内閣府および気象庁は、日本海溝・千島海溝沿いの想定震源域において、大規模な地震が発生した場合に、後続するさらに大規模な地震への注意喚起を行う枠組みを構築した。これが「北海道・三陸沖後発地震注意情報」である。本制度は、地震予知(Prediction)ではなく、統計的な切迫度の上昇を示すリスク評価(Probabilistic Forecasting)に基づくものである。

2. 制度の定義と発動条件

2.1 対象領域とトリガー

本情報の対象領域は、北海道から岩手県にかけての沖合に位置する「日本海溝」および「千島海溝」の想定震源域である。発動条件(トリガー)は以下の通り定義されている。

  • 先発地震: 対象領域内で発生したマグニチュード7.0以上の地震。
  • 情報発表: 先発地震の発生から概ね2時間後(専門家による評価検討会の分析を経て発表)。
  • 対象期間: 情報発表から1週間

2.2 「後発地震」の定義

ここで警戒すべき「後発地震」とは、先発地震と同じ領域または隣接領域で発生する、マグニチュード8.0以上の巨大地震を指す。すなわち、M7クラスの地震が、より巨大なプレート間地震の「割れ残り」を誘発し、破壊が拡大するシナリオを想定している。

3. 科学的根拠と統計的確率

3.1 世界の地震事例に基づく統計解析

世界の地震カタログ(1900年〜)を用いた統計解析によれば、M7.0以上の地震が発生した後、7日以内に同程度またはそれ以上の規模の地震が発生する頻度は以下の通りとなる。

$$ P(M \ge 8.0 | M_{pre} \ge 7.0) \approx 10^{-2} $$

すなわち、約100回に1回程度の割合で、M8クラスの巨大地震が続発している。この確率は数値としては1%程度に見えるが、平時の発生確率(数十年〜数百年に一度)と比較すると、約100倍から数千倍にまでリスクが跳ね上がっている状態(相対的リスク増大)を示している。

3.2 発生パターンの物理モデル

後発地震が発生するメカニズムとして、主に以下の2点が挙げられる。

  1. アスペリティの連動破壊: 先発地震によって固着域(アスペリティ)の一部が破壊された際、周囲の未破壊のアスペリティに応力集中(Stress Concentration)が生じ、耐えきれずに連鎖的に破壊する。
  2. スロースリップ(Slow Slip)の誘発: 高速な地震性すべりが、プレート境界深部のゆっくりとしたすべりを誘発し、これが隣接する震源域の応力を時間をかけて増加させ、数日〜1週間のタイムラグを生む。

4. 運用と社会的対応

4.1 「事前避難」ではなく「避難準備」

本情報の核心は、住民に対して即時の避難を求めるものではない点にある。M8クラスの続発確率は高まっているとはいえ、絶対値としては数パーセント以下であり、9割以上のケースでは何も起こらずに推移する(空振りとなる)。

したがって、社会経済活動を全面的に停止させることは過剰反応(False Positive Cost)となり得るため、求められる行動は「日常生活を継続しつつ、即座に避難できる準備を整える」ことに留められている。

表1:南海トラフ臨時情報との比較
項目 北海道・三陸沖 後発地震注意情報 南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)
対象エリア 日本海溝・千島海溝 南海トラフ全域
トリガー規模 M7.0以上 M6.8以上(評価検討)、M8.0以上(警戒)
推奨行動 避難準備(事前避難は求めない) 一部地域で1週間の事前避難を含む厳重警戒
科学的確度 統計的傾向に基づく注意喚起 固着状態のモニタリングに基づく判定を含む

4.2 防災上の「1週間」の意味

過去の事例において、連動型地震の多くが最初の地震から数日〜1週間以内に発生している。オモリ則(Omori's Law)に従えば、余震活動は時間経過と共に減衰するため、最初の1週間を警戒期間として設定することは、リスク管理の観点から合理的である。1週間経過後は、リスクが「平時よりは高いものの、特別体制を維持するほどではない」レベルまで低下したと判断される。

5. 結論

「北海道・三陸沖後発地震注意情報」は、現代地震学が到達した「予知の限界」と「確率評価の有用性」の妥協点に位置する制度である。以下の3点が重要である。

  1. 情報の性質: これは「地震予報」ではなく、「リスクの高まり」を伝える情報である。不確実性を前提とした行動が求められる。
  2. 時間的猶予の活用: 先発地震の発生から後発地震までの「空白の時間(数時間〜数日)」は、家具の固定、避難経路の確認、備蓄の再点検を行うための貴重な猶予期間である。
  3. 「空振り」の受容: 100回のうち99回は何も起こらないかもしれないが、その1回が壊滅的な被害をもたらす可能性がある。この非対称性を理解し、情報解除後も「空振りでよかった」と捉える社会的な成熟が必要である。

我々は、2011年の「想定外」を再び繰り返してはならない。M7クラスの地震が発生した直後、海溝沿いの歪みは解消されるどころか、隣接領域において極限まで高まっている可能性があるという認識こそが、次なる巨大地震から命を守る最大の武器となる。

参考文献・引用元:
1. 内閣府 (2022). 「北海道・三陸沖後発地震注意情報の運用開始について」.
2. 気象庁地震火山部 (2022). 「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震の防災対応ガイドライン」.
3. Kagoda, M. et al. (2012). "Delayed rupture propagation in subduction zones". Journal of Geophysical Research.
4. 2011年東北地方太平洋沖地震における前震・本震シーケンス解析データ.

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