中国軍による自衛隊機への
レーダー照射事案
~「ロックオン」が意味する決定的危機とは~
2025年12月6日、東シナ海上空において、中国軍機がスクランブル発進中の航空自衛隊機に対し、火器管制レーダー(FCR)を照射(ロックオン)するという極めて危険な事案が発生しました。 これは単なる挑発を超え、実戦における「攻撃直前の動作」であり、現場のパイロットにとっては死の恐怖を伴う一触即発の事態です。
本記事では、この事案がなぜ「危機的」なのか。2018年の韓国駆逐艦による照射事件との違いは何なのか。そして、この「見えない引き金」が日本の安全保障に突きつける現実について、専門的な視点を交えて徹底解説します。
▼ 12/6 インシデントの全貌
防衛省の発表および関係筋の情報によると、事案の概要は以下の通りです。
- 発生日時:2025年12月6日 午後
- 発生場所:東シナ海 公海上空(日本の防空識別圏内)
- 対象:航空自衛隊 那覇基地所属 F-15J戦闘機(スクランブル任務中)
- 加害側:中国空軍 J-16戦闘機(推定)
- 行為:数分間にわたり、ミサイル誘導用の火器管制レーダーを執拗に照射
通常の警戒監視活動において、相手を探すための「捜索レーダー」の使用は一般的です。しかし、今回の「火器管制レーダー(ロックオン)」は、特定の標的をミサイルで撃墜するために電波を一点に集中させる行為です。これは、人間に例えるならば、「銃口を額に突きつけ、安全装置を外して指をトリガーにかけた状態」と全く同義です。
▼ 「捜索」と「照射」の決定的違い
一般の方には分かりにくい「レーダー照射」の技術的な恐怖について解説します。戦闘機や軍艦は、常に電波を出しています。しかし、その質には天と地ほどの差があります。
① 捜索レーダー (Search Radar)
懐中電灯で暗闇全体を照らすようなものです。「あそこに誰かいるな」と把握するためのもので、これは日常的に行われており、攻撃の意思表示ではありません。
② 火器管制レーダー (Fire Control Radar)
今回のケースです。これは、レーザーポインターで相手の眉間を一点照射し続ける行為です。ミサイルはこの反射波に向かって飛んでいきます。
自衛隊機のコックピットでは、「レーダー警戒装置(RWR)」が不気味な警報音(ロックオン・アラート)を鳴り響かせ、パイロットに「お前は狙われている、あと数秒で撃たれるかもしれない」と告げます。この精神的プレッシャーは想像を絶します。
▼ 2018年 韓国海軍レーダー照射事件との比較
2018年12月、韓国海軍の駆逐艦が海自のP-1哨戒機にレーダーを照射した事件を覚えている方も多いでしょう。今回の中国のケースは、あの時よりもさらに深刻な意味を持ちます。
- 韓国の事例(2018):当時、日韓は準同盟的な協力関係にありました。「味方(のはずの国)」から銃を向けられたという外交的・信頼関係の崩壊が焦点でした。偶発的か意図的かの議論が続きました。
- 中国の事例(2025):中国は明確に日本の領土・領空への進出を強める「仮想敵国」としての側面を持っています。この状況でのロックオンは、「いつでも撃墜できる」という軍事的な恫喝であり、日本の出方を試すハイレベルな挑発行為です。
韓国の事例が「背信行為」だとすれば、今回の中国の事例は「宣戦布告の一歩手前」というレベルの違いがあります。
▼ なぜ今、中国は引き金をかけたのか
2025年末というタイミングでの照射には、中国側の明確な意図が透けて見えます。
1. 自衛隊の反応速度の計測:
ロックオンされた際、自衛隊機が回避行動(チャフ・フレアの準備や急旋回)をどう取るか、電子戦データ(ECM)をどう使うか。これらの「実戦データ」を収集する狙いがあります。
2. 既成事実化(サラミ戦術):
「ロックオンしても日本は撃ち返してこない」という前例を作ることで、東シナ海での活動をより攻撃的にエスカレートさせる狙いです。尖閣諸島周辺での活動拡大とセットで考えるべきです。
▼ 現場の自衛官が直面した「極限」
ロックオン警報が鳴り響く中、自衛隊のパイロットは、反射的に反撃(ミサイル発射ボタンへの指かけ)を行ってもおかしくない状況でした。正当防衛が成立しうる状況です。
しかし、彼らは耐えました。もしここで自衛隊機が応戦していれば、それは即座に日中間の武力衝突、ひいては戦争へと発展していたでしょう。
「撃たれるかもしれない恐怖」の中で、冷静に回避し、証拠を記録し、生還したパイロットの精神力と技量は、もっと国民に知られ、称賛されるべきです。彼らは文字通り、日本の平和を最前線で守り抜いたのです。
▼ 結論:私たちはどう向き合うべきか
CUES(洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準)においても、火器管制レーダーの照射は禁じられています。中国側の行為は国際法違反であり、常軌を逸しています。
今回の12/6事案は、ニュースの一過性の話題で終わらせてはいけません。以下の点を強く認識する必要があります。
- 平和ボケと言われる日常のすぐ隣(空の彼方)で、自衛官は銃口を突きつけられている。
- 遺憾の意(抗議)だけでは、実力を行使してくる相手には通じないフェーズに入った。
- 電磁波領域(電子戦)における優位性を確保しなければ、現代戦では戦わずして負ける。
政府には、証拠データの開示(可能な範囲で)と、国際社会への強力な発信、そして何より「現場の自衛官が躊躇なく身を守れる法整備と装備の拡充」を求めたいと思います。