【詳細解説】 人事院勧告と独自改正案を徹底解説
2025年(令和7年)は、自衛官を含む国家公務員の給与にとって大きな変動の年となりそうです。
8月に発表された「人事院勧告」によるベースアップに加え、11月には深刻な人材不足に対応するため、防衛省が独自に「全世代の俸給引き上げ」を検討していることが報じられました。
第一部:2025年(令和7年)人事院勧告の詳細(全国家公務員共通)
まず、自衛官の給与の基礎となる、一般職国家公務員向けの「令和7年人事院勧告」(2025年8月7日発表)の「詳細な」内容です。
1. なぜ「高水準のベースアップ」となったか?
今回の勧告が平均3.62%(15,014円)という高い水準になった最大の理由は、官民給与の比較方法が変更されたためです。
- 変更点:
- 従来:国家公務員の給与は「企業規模50人以上」の民間企業と比較。
- 今回から:比較対象を「企業規模100人以上」に変更。
- 理由:
- 厳しい人材獲得競争(民間企業、特に大企業との競合)に対応するため。
- より実態に合った比較を行うため、本府省職員(霞が関勤務など)については、比較対象を東京23区内の「企業規模1,000人以上」の本店勤務者へと、さらに引き上げています。
この結果、民間給与との「較差(かいさ)」が大きくなり、その差を埋めるために引き上げ幅が大きくなりました。
2. 月例給とボーナスの詳細
- 月例給(基本給): 平均 3.62%(15,014円)引き上げ
- 若年層に重点を置きつつも、中堅層以上の職員についても「昨年を大幅に上回る引き上げ」を行うとしています。
- ボーナス(期末・勤勉手当): 0.05月分 引き上げ
- 年間支給月数が 4.60月分 → 4.65月分 となります。
- 引き上げ分は、6月と12月の期末手当・勤勉手当に0.025月分ずつ均等に配分されます。
3. 注目すべき「手当」の改定詳細
今回、特に注目すべきは各種手当の大幅な見直しです。これらは自衛官(特に本省勤務者や特定の勤務地の隊員)にも適用されます。
- 本府省業務調整手当の拡充(令和7年4月〜)
- 防衛省本省(市ヶ谷)などで勤務する職員が対象です。
- これまで対象外だった幹部・管理職員(課長級など)も新たに支給対象に。
- 課長補佐級:月額 10,000円 引き上げ
- 係長級以下:月額 2,000円 引き上げ
- 通勤手当の改定
- 駐車場代の補助(令和8年4月〜):
- マイカー通勤などで駐車場を利用している場合、月額 5,000円を上限に駐車場代が新たに手当として支給されます。
- 距離区分の見直し(令和7年4月〜):
- 自動車などの通勤距離に応じた手当額が、200円〜7,100円の幅で引き上げられます。
- 駐車場代の補助(令和8年4月〜):
- 特地勤務手当の見直し(令和7年4月〜)
- いわゆる「僻地(へきち)」勤務者が対象です。
- 他の手当(扶養手当など)が支給されると特地勤務手当が減額される「減額調整措置」が廃止されます。
第二部:自衛官独自の給与改定(11月報道の詳細)
上記の人事院勧告(主に一般職向け)に加え、2025年11月8日、「自衛官の給与を独自に引き上げる法案」を政府が検討していると報じました。
これは人事院勧告とは別の防衛省独自の動きです。
1. 目的:深刻な人材不足と中途退職防止
- 報道によると、目的は「中途退職の防止」と「人材確保」です。
- 人事院勧告が「若年層」に重点を置いているのに対し、防衛省の案は、任務の中核を担う中堅層の流出を防ぐため「全世代での引き上げ」を検討している点が最大のポイントです。
2. 報道された「初任給」の引き上げ額
- 2士(高卒・任期制でない隊員):
- 14,900円 増額 → 239,500円
- ※参考:人事院勧告の一般職(高卒)は 200,300円であり、自衛官の任務の特殊性を考慮し、大幅に高い水準が検討されています。
- 自衛官候補生(高卒・任期制隊員):
- 11,500円 増額 → 190,500円
<重要:現在のステータス>
これらの「自衛官独自の引き上げ案」は、2025年11月11日時点では、まだ国会に法案が提出・可決された「確定情報」ではありません。
あくまで「政府が今国会での改正案提出を検討している」という報道段階です。
しかし、現在の安全保障環境と人材不足の深刻さを鑑みると、実現の可能性は非常に高いと見られます。
第三部:2025年に「成立済み」の自衛官処遇改善
上記の人事院勧告や11月の報道とは「別枠」で、2025年5月にすでに「防衛省設置法等の一部を改正する法律」が成立しています。
これにより、以下の手当が新設・引き上げられることが決定しています。これらは人事院勧告とは関係なく、自衛隊の任務の特殊性に応じて追加されるものです。
- 航空管制官手当(仮称)の「新設」
- 航空手当(パイロットなど)の「引上げ」
- 予備自衛官手当の「引上げ」
- 即応予備自衛官手当の「引上げ」
まとめ
2025年の自衛官の給与改定は、
- 人事院勧告によるベースアップ(平均3.62%)と手当拡充(4月遡及)
- 防衛省独自の全世代俸給引き上げ(11月報道・法案検討中)
- 5月成立の法律による独自手当の改善という「三重の引き上げ」が期待される、異例の年となっています。
