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世界はどう見ている?中国レーダー照射問題

中国FCR照射問題:第三者視点による詳細分析

中国海軍FCR照射問題:世界はどう見ているのか?

An Analysis from the Perspective of International Military Standards & Geopolitics

01. 「照射」の軍事的意味:なぜ欧米はこれを"準・攻撃"とみなすのか

この問題を理解するためには、まず感情論を排し、純粋な「海軍の技術論」と「国際ルール」の観点から、火器管制レーダー(Fire Control Radar、以下FCR)照射の意味を解剖する必要があります。一般メディアでは「危険な行為」と一括りにされますが、軍事専門家の視点では、通常の航行妨害や幅寄せとは次元の異なる「レッドライン」への接触とみなされます。

軍艦には大きく分けて2種類のレーダーが存在します。一つは「捜索レーダー(Search Radar)」です。これは周囲を警戒するために常時回転しており、電波を広範囲に撒き散らす「灯台」や「懐中電灯」のような役割を果たします。他国の軍艦にこの電波が当たっても、それは単に「そこにいることを見ている」に過ぎず、敵対行為とはみなされません。

対して、今回問題となったFCRは全くの別物です。これは攻撃目標の正確な方位、距離、速度を瞬時に計算し、主砲やミサイルの誘導装置にデータを流し込むための「照準器」です。FCRを照射する(ロックオンする)という行為は、物理的には「引き金に指をかけ、安全装置を解除し、銃口を相手の眉間に押し当てた」状態と完全に同義です。現代の兵器システムにおいて、ロックオンから発射までのタイムラグは数秒もありません。つまり、照射された側からすれば、それが「威嚇」なのか「実射の0.1秒前」なのかを判別する術はないのです。

CUES(洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準)との乖離

2014年、中国を含む西太平洋海軍シンポジウム加盟国は「CUES」という紳士協定に合意しました。この中では、平時の遭遇において避けるべき行動として「火器管制レーダー等の対艦攻撃に関連するシステムを相手艦船に向けること」が明記されています。第三者的な視点、特に米軍やNATO加盟国の法務官の解釈では、今回の行為はCUESへの明白な違反であるだけでなく、国連憲章における「武力による威嚇」に該当する可能性が高いと判断されます。冷戦時代の米ソ対立下であっても、FCR照射は一触即発の危機を招くため、双方が極めて慎重に回避してきた「禁じ手」なのです。

02. 欧米・ASEANの視点:中国の「サラミ戦術」と信頼性の欠如

この事件を日本と中国の二国間問題として片付けるのは間違いです。ワシントン、ブリュッセル(NATO)、そしてシンガポールやベトナムといったASEAN諸国の軍事アナリストたちは、この事案を中国の海洋進出戦略というより大きな文脈の中で捉えています。

欧米の軍事筋が最も懸念したのは、中国海軍の「プロフェッショナリズムの欠如」です。米海軍や英海軍の常識では、平時にFCRを使用することは厳重に管理されており、艦長の許可なく行われることはあり得ません。もしこれが意図的な挑発であれば「国家として攻撃的」であり、もし現場の独断であれば「統制が取れていない素人集団」ということになります。第三者の視点では、どちらに転んでも中国海軍は「信頼できないプレイヤー」であるという評価が確定しました。

一方、南シナ海で中国と対峙するASEAN諸国は、これを「サラミ戦術(Salami Slicing)」の一環と見ています。サラミ戦術とは、相手が戦争を決断するほどではないが、確実に不快で危険な行動を小刻みに繰り返し、既成事実を積み上げていく手法です。中国はこれまで、漁船や海警局の船を使って同様の圧力をかけてきましたが、正規軍である海軍艦艇が直接的な照準行為を行ったことは、エスカレーションのレベルを一段上げたことを意味します。

国際政治学者の視点では、中国のこの行動は「日本の反応テスト」でもあります。日本がどこまで耐えるか、米国がどの程度強く関与してくるかを図るための「観測気球」としての側面です。しかし、FCR照射という行為は、偶発的な戦闘(Accidental War)を招くリスクがあまりに高く、第三国から見れば「中国はリスク計算ができていない、あるいはリスクを軽視している危険な国家」として映っています。

03. 電子戦の真実:なぜ日本は証拠を「一部」しか出せないのか

中国側は「日本のでっち上げだ」と主張し、日本側は「証拠はあるが機密に関わるため全ては公開できない」としました。この情報の非対称性は、一般人には「どっちもどっち」に見えるかもしれませんが、軍事技術の専門家(第三者)から見れば、日本の主張に理があることは明白です。なぜなら、現代の海戦は「電子戦」だからです。

軍艦にはESM(電子戦支援装置)という、飛んでくる電波を分析する「耳」がついています。FCRは、標的を精密に追尾するために、捜索レーダーとは全く異なる特有の周波数、パルス幅、照射パターンを持っています。これを「指紋」のように照合することで、どの艦のどのレーダーが、どのようなモード(捜索か追尾か)で作動しているかが瞬時に判別できます。日本側が「FCR特有の電波を感知した」と発表した時点で、技術的には誤認の可能性は極めて低いのです。

情報のジレンマ(Intelligence Dilemma)

では、なぜ日本は決定的な証拠(生の波形データ)を公開しないのでしょうか。第三者の情報将校はこう分析します。「生のデータを出すことは、自衛隊のESM能力(どこまで細かく敵の電波を解析できる能力があるか)を中国側にさらけ出すことになるからだ」。
もし日本がデータを公開すれば、中国軍は「日本の探知能力はこの程度か、ならば次は周波数をこう変えればバレないな」と対策を打つことができます。これを防ぐために、日本はあえて「音」への変換データなど、加工した証拠しか出せなかったのです。欧米の軍事関係者はこの事情を熟知しており、日本の「出さない」判断を、証拠がないからではなく「防諜上の当然の措置」として支持しています。

04. 結論:シビリアン・コントロールの不在と「カオス・リスク」

最終的に、第三者的な視点から見たこの問題の最大の恐怖は、物理的なミサイルの脅威以上に、中国軍内部の「ガバナンス(統治)」に対する疑念です。

この事件後、中国国防省や外務省の反応には一貫性がなく、当初は事実関係を把握していないような節も見られました。ここから導き出される第三者の分析は、「中国共産党指導部(習近平主席ら)の意図とは無関係に、現場の指揮官が暴走して挑発行為を行ったのではないか」という可能性です。これを「現場の跳ね上がり」と呼びます。

もし、中国軍が中央の統制を離れて現場判断でFCR照射のような準戦闘行為を行える状態にあるとすれば、それは極めて危険な「カオス・リスク」です。偶発的な衝突が起きた際、北京のホットラインが機能せず、現場の応酬だけで戦争に突入するシナリオが現実味を帯びてくるからです。
国際社会にとって、中国によるFCR照射問題は、単なる日中間のトラブルではなく、「核保有国である中国の軍隊が、実は近代的な統制が効いていない危険な組織かもしれない」という、より深刻な安全保障上の懸念を露呈させた事件として記録されています。

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