自衛官のご家族へ
現役隊員が亡くなられた時の
完全対応ガイド
【最初にこれだけは読んでください】
突然のことでパニックになっているかもしれませんが、自衛隊という組織は、所属隊員が亡くなった際、遺族を「絶対に一人にはしません」。
必ず部隊から「業務担当者(あるいは厚生担当)」と呼ばれるサポート役の自衛官が派遣されます。彼らが葬儀の手配から書類作成まで、ほぼ全てを先導してくれます。
あなたは全てを一人で背負う必要はありません。「分からないことは部隊の人に聞く」というスタンスで大丈夫です。
この記事では、焦っているご遺族のために、「直後〜1週間」「葬儀後」「1ヶ月〜長期」という時系列に沿って、やるべきこと、特に自衛隊特有の手続きを超詳細に解説します。
フェーズ1:直後〜葬儀まで(0日目〜3日目)
まずは、心を落ち着けて、目の前の「お見送り」の準備だけに集中しましょう。
1. 所属部隊への連絡(もし部隊が知らない場合)
病院等で亡くなられた場合、直ちに所属していた駐屯地・基地の部隊へ連絡します。通常は、本人の携帯電話や手帳にある緊急連絡網、または部隊の代表電話にかけ、「所属・階級・氏名」と「亡くなった事実」を伝えます。
ここがポイント:
連絡がついた時点で、部隊側で「葬送支援チーム」のようなものが立ち上がります。これ以降、部隊の上司や担当者が病院や自宅へ駆けつけてくれます。
2. 葬儀社・斎場の決定
ご遺体を搬送する必要があります。部隊の人が到着していれば相談に乗ってくれますが、基本的にはご遺族が葬儀社を決めます。
- 自衛隊指定の葬儀社というのは特にありません。
- しかし、地元の駐屯地と付き合いのある葬儀社だと「自衛官の葬儀(独特のしきたり)」に慣れているため、スムーズな場合があります。部隊の人に「よく使われているところはありますか?」と聞くのも手です。
3. 自衛隊としての対応を決める(重要)
ここが一般企業と大きく違う点です。部隊側と以下のことを話し合います。
【確認事項】
- 部隊葬にするか、個人葬にするか:
「公務中の死亡(殉職)」でない「病死」の場合、基本的にはご家族主催の「個人葬」になります。しかし、部隊長や同僚が参列し、弔辞を読むなどの「支援」が入ることが一般的です。 - 制服(正服)を着せるか:
旅立ちの衣装(死装束)を、白い着物にするか、自衛官の制服(制服・制帽)にするかを選べます。本人の誇りであったなら、制服を希望してください。部隊が用意してくれます。 - 弔問の受け入れ:
現役自衛官の場合、同僚や上司など多くの隊員が弔問に来る可能性があります。香典返し等の準備数を多めに見積もる必要があります。
フェーズ2:葬儀・告別式
部隊の方々が手伝いに来てくれる場合が多いです。受付や案内係を自衛官(制服姿)が行うこともあります。これは彼らにとって「最後の敬礼」をする任務ですので、遠慮なく甘えてください。
自衛隊特有の儀礼について
病死の場合でも、部隊の意向やご遺族の希望により、以下のことが行われる場合があります。
- 弔辞: 部隊長(連隊長や艦長など)による弔辞。
- 弔電: 防衛大臣や方面総監などからの弔電が届くことがあります。
- 敬礼: 出棺の際、参列した自衛官一同で敬礼をして見送ることがあります。
フェーズ3:諸手続き(葬儀後〜2週間)
葬儀が終わってからが、書類手続きの本番です。一般の手続きに加え、自衛隊独自の手続きが山のようにあります。これも「部隊の厚生担当者」がリストを作ってサポートしてくれるはずですが、予習しておきましょう。
1. 貸与品の返納(官品返納)
自衛官は国から多くの物を借りています。これらを返さなければなりません。
- 身分証明書: 最も重要です。悪用防止のため速やかに部隊へ渡します。
- 制服・作業服・装具: 駐屯地のロッカーにあるものは、同僚が整理してくれることが多いです。自宅にある制服類も回収対象になります。
- 保険証(防衛省共済組合員証): すぐに返納し、ご遺族(被扶養者)は国民健康保険などへの切り替えが必要になります。
2. 死亡退職の手続き
現役中の死亡は、形式上「死亡による退職」という扱いになります。これにより「退職金」が発生します。
※この退職金は、相続税の対象(みなし相続財産)になりますが、法定相続人の数×500万円の非課税枠があります。
フェーズ4:お金と生活の保障(超重要)
ここが最も複雑で、かつ今後の生活に関わる重要な部分です。自衛隊(防衛省)には独自の保障制度があります。漏れがないか確認してください。
| 名称 | 内容とポイント |
|---|---|
| 死亡退職金 | 勤続年数と階級に応じて支払われます。一般企業の退職金に相当します。 |
| 死亡弔慰金 (賞じゅつ金) |
公務上の死亡(殉職)か、そうでないか(病死等)で金額が大きく異なります。 病死の場合でも「弔慰金」が支払われます。 |
| 団体生命保険 (防衛省生協など) |
【最重要チェック項目】 多くの自衛官は、給与天引きで「団体生命保険」に加入しています。一般の保険より掛け金が安く、保障額が大きいのが特徴です。 給与明細(または部隊の厚生担当)を確認し、必ず請求してください。数千万円単位になることもあります。 |
| 防衛省共済組合 (埋葬料など) |
健康保険のようなものです。「埋葬料」や「埋葬費」として一定額が給付されます。 |
| 遺族年金 | 「遺族基礎年金」に加え、公務員独自の「遺族厚生年金」が受給できる可能性があります(加入期間等の条件あり)。これは長期的な生活の支えになります。 |
※注意:口座凍結について
銀行が死亡の事実を知ると、故人の口座は凍結されます。退職金や保険金の振込先は、必ず「受取人(遺族)名義の口座」を指定してください。
フェーズ5:メンタルケアとその後
全ての手続きが一段落するには、四十九日あたりまでかかるでしょう。それまでは気が張っていて疲れを感じないかもしれませんが、手続きが終わった頃にドッと悲しみが押し寄せることがあります。
部隊との関係について
自衛隊は「家族主義」です。一周忌や三回忌などの節目に、かつての上司や同僚がお花を贈ってくれたり、お参りに来てくれることがあります。
もし、生活に困ったり、手続きで不明な点が出てきたら、退職(死亡)して時間が経っていても、当時の部隊の厚生科などに相談しても構いません。彼らはかつての仲間を無下にすることはありません。
最後に:チェックリスト
焦った時はこのリストを見てください。
- 死亡診断書のコピー(10枚以上とっておく)
- 部隊への連絡・担当者の名前と連絡先の記録
- 葬儀社との打ち合わせ(日程・予算)
- 駐屯地ロッカーの荷物の引き取り(部隊と調整)
- 身分証・保険証の返納
- 団体生命保険の証書探し・請求
- 準確定申告(4ヶ月以内)
- 相続税の申告(10ヶ月以内)
このマニュアルが、少しでもご遺族の心の支えとなり、スムーズな手続きの一助となることを願っております。
あなたは一人ではありません。