身体検査について

自衛官の採用試験における「身体検査(一般)」と、パイロット(航空学生や幹部候補生飛行要員)を目指すための「航空身体検査」は、その基準の厳しさや検査項目に雲泥の差がありますパイロットを目指す受験生に関しては、勉強と同じ熱量で視力についてもケアしてあげてください


🪖 自衛隊 一般身体検査(全採用種目共通)

これは自衛官候補生、一般曹候補生、幹部候補生など、自衛隊に入隊するすべての人が受ける基本的な検査です。

「過酷な任務に耐えうるか」よりも「集団生活や基礎訓練に支障がない健康状態か」を確認する基礎的なスクリーニングの意味合いが強いです。

📍 検査のタイミングと場所

  • 実施時期: 各採用試験の一次試験または二次試験時(筆記や面接の前後)。
  • 場所: 駐屯地・基地の医務室、または指定された公共施設等の会場。

📋 具体的基準と詳細項目(2025年度傾向)

項目詳細基準・内容備考
身長男子:150cm以上
女子:140cm以上
基準未満は即不合格。以前より緩和されていますが、絶対基準です。
体重身長と体重のバランス(BMI)で判定。
・18.5以上
・28.5未満(上限は変動あり)
「痩せすぎ」も不合格になります。筋肉過多(ラグビー部等)で数値がオーバーする場合は、医師による体脂肪率等の総合判定が入るケースがあります。
胸囲身長の約2分の1以上極端に胸郭が薄く、肺活量に懸念がある場合を除き、そこまで厳格ではありません。
視力両眼とも裸眼0.6以上
または
矯正(眼鏡等)で0.8以上
「眼鏡をかけて0.8」見えれば合格です。これが一般検査の最大の特徴で、近視でも問題ありません。
色覚色覚異常がないこと石原式検査表を使用。「赤・青・黄」の信号灯や計器の識別が必須です。軽度の場合は合格する職種もありますが、職種制限(航空・艦艇など不可)がつきます。
聴力正常であることオージオメーター検査。高音域・低音域の聞き取り。
多数の虫歯・欠損がないこと治療済みならOK。「固い糧食(ミリメシ)を噛めるか」が基準です。
血圧正常範囲内上が140以上等は要注意。白衣高血圧(緊張)の場合は、時間を置いて再計測してくれることが多いです。

⚠️ その他(隠れた不合格要因)

数値以外に、集団生活・武器扱いの観点から厳しく見られるポイントです。

  • 四肢関節の機能:
    • 全員一斉にパンツ一枚等になり、「屈伸」「腕回し」「アヒル歩き(しゃがんだまま歩行)」を実施。
    • 骨折後の可動域制限、脱臼癖などは厳しくチェックされます。
  • 刺青(タトゥー):
    • 絶対不可項目。大きさ、デザイン、場所(下着で隠れる場所など)に関わらず一発アウトです。切除痕があっても、傷跡が目立つ場合は不可となる可能性があります。
  • 既往歴・手術歴:
    • 「気胸」「ヘルニア」「精神疾患」は重点項目。
    • 特に精神科通院歴や自傷行為の痕跡(リストカット痕)は、銃器を扱う組織の性質上、最も厳格に排除されます。

✈️ 航空身体検査(パイロット志望者向け)

航空学生や、一般・防大の飛行要員希望者が受ける検査です。

これは「入隊検査」ではなく「パイロット適性検査」です。民間航空会社の第一種身体検査に準拠しつつ、戦闘機等の高G環境に耐えうる「軍用規格」が上乗せされます。

📍 検査の実施環境

  • 場所: 航空自衛隊 入間基地(埼玉)などの航空医学実験隊施設。
  • 期間: 2次試験以降で実施。数泊数日の合宿形式で行われることが多く、生活態度全てが審査対象です。

👁️ 最重要:眼科(Visual System)

全項目中、最も脱落率が高い「鬼門」です。

  • 遠見視力:
    • 原則、裸眼視力が重視されます。
    • 航空学生(高卒区分)は依然として裸眼視力が強く求められます。大卒区分などでは条件付きで矯正(眼鏡)受験も緩和されつつありますが、基準は極めて高いです(各眼1.0以上など)。
  • 深視力(立体視):
    • 三桿法(さんかんほう):3本の棒のうち真ん中が動き、横一列に並んだ瞬間にボタンを押す。数ミリ~2センチ程度のズレしか許されません。空中給油や編隊飛行の距離感に直結します。
  • 眼位(斜位):
    • 眼球を動かす筋肉のバランス検査。疲れた時に物が二重に見える「隠れ斜視」があると不合格です。
  • 調節麻痺下屈折検査(サイプレジン):
    • 散瞳薬(目薬)でピント調節筋を麻痺させ、真の視力を測ります。無理やり力んで視力を出している場合や、将来強い近視になる素因がある場合はここで発覚します。

👂 耳鼻咽喉科(ENT)

  • 平衡機能: 回転椅子や足踏み検査で、めまい耐性と空間識(自分がどの体勢にいるか)を確認。
  • 耳管通気(バルサルバ法): 鼻をつまんで息み、スムーズに耳抜きができるか。急降下時の気圧変化で鼓膜が破れないために必須です。
  • 鼻中隔湾曲: 鼻の骨が曲がっていて鼻呼吸がしにくいと、酸素マスク装着時に支障が出るためチェックされます。

🧠 循環器・脳波・内科

  • 脳波検査(EEG): 光刺激や過呼吸負荷を与え、てんかん(Epilepsy)の波形が出ないか徹底的に調べます。操縦中の意識喪失は致命的だからです。
  • 心電図: 階段昇降などの負荷心電図を実施し、隠れた心疾患を探します。
  • 血液: 肝機能、血糖値、尿酸値など、生活習慣病のリスクも厳しく見られます。

📏 人体計測(コックピット適合)

  • 単に背が高いだけではダメです。座高、大腿長(太ももの長さ)、腕のリーチを計測。
  • 射出座席を使用した際に膝が計器にぶつからないか、ラダーペダルに足が届くかなど、機体との物理的な適合性を判定します。

⚖️ 決定的な違いと対策

比較項目🪖 一般身体検査✈️ 航空身体検査
目的基礎訓練に耐えられるかパイロットとして飛び続けられるか
視力眼鏡・コンタクトでOK裸眼重視、深視力・眼筋まで徹底調査
難易度健康なら通る健康優良児でも「適性」がなければ落ちる
判定基準現在の状態将来のリスクも含めて判定

💡 ユーザー様へのアドバイス

  1. 一般検査対策:
    • 最もコントロールしやすいのは体重(BMI)です。試験日に向けて、範囲内に収まるよう調整してください。
    • 前日の飲酒や寝不足は、血圧や尿検査に響くので厳禁です。
  2. 航空身体検査対策:
    • 眼の保護: 現代人はスマホで目を酷使しています。遠くを見る、蒸しタオルで温めるなどケアを徹底してください。
    • 深視力: 大型免許の試験場や、深視力計のある眼鏡店で練習可能です。コツを掴むだけで結果が変わります。
    • 耳抜き: プールや飛行機で、スムーズに抜ける感覚を養ってください。