政府は自衛官の給与基準を定める「俸給表」の抜本改定を、当初の予定より1年前倒しし、2027年度(令和9年度)から実施する方針を固めました。これは単なる「賃上げ」ではなく、人事院勧告とは全く異なる次元の制度改革となります。
1. なぜ「別次元」なのか? 人事院勧告との決定的な違い
ニュースなどでよく耳にする「人事院勧告による給与改定」と、今回の「俸給表の抜本改定」は、目的も規模も全くの別物です。ここを混同すると、今回のニュースの凄さが見えてきません。
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| 例年の 「人事院勧告」 |
今回の 「抜本改定」 |
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| 何をする? | 今の給与体系の中で、金額を微調整する(リフォーム)。 | 給与の「仕組み自体」を作り直す(建て替え)。 |
| 目的は? | 民間企業の給与とバランスを取るため。 | 自衛官という任務の「特殊性・危険性」を正当に評価するため。 |
| 対象は? | 全公務員が一律。 | 自衛官のみ(独自の体系)。 |
これまでは「警察官のオマケ」扱いだった
これまでの自衛官の給与は、「警察官の給与表」を借りてきて、それに約10%上乗せするという、いわば「つぎはぎ」で作られた制度でした。これは1954年の自衛隊発足当時から約70年間、実質的に変わっていません。
今回の改革は、この「借り物の制度」を捨て、「自衛官専用の新しい給与基準(俸給表)」をゼロから作るという、歴史的な大改革なのです。
2. 新しい給与制度の具体的イメージ
では、新しい制度では何が変わるのでしょうか? 政府は主に以下の要素を取り入れる方針です。
- 「24時間勤務」の正当な評価
一般公務員のような「9時-17時+残業」という概念ではなく、災害派遣や有事の際に求められる「いつ呼び出されるか分からない即応待勢」そのものを給与に反映させます。 - 「危険手当」から「基本給」への反映
これまでは危険な任務に対して都度「手当」で対応していましたが、日常的にリスクを負う職業であることを踏まえ、ベースとなる基本給の水準自体を引き上げます。 - 諸外国の軍隊基準(Global Standard)
アメリカ軍やイギリス軍などの給与体系を調査し、「軍事組織」としてふさわしい待遇水準を参考にします。
3. なぜ今、これほど急ぐのか?
政府が改革を「1年前倒し」してまで急ぐ背景には、待ったなしの危機的状況があります。
人材流出が止まらない「負の連鎖」
現在の自衛隊の定員に対する充足率は89.1%まで低下しています。特に深刻なのが中途退職者の増加で、2023年度だけで6,258人が自衛隊を去りました。
「給与が安く、負担が大きい」という現状を変えなければ、国を守る組織自体が維持できないという強い危機感が、今回の「別次元の改革」につながっています。
4. 今後のスケジュール
高市首相による表明を受け、以下の流れでスピーディーに進められます。
- 現在〜2026年:全自衛官の勤務実態調査、有識者会議での制度設計。
- 2026年中:「国家安全保障戦略」等の改定と並行して詳細決定。
- 2027年度(令和9年4月〜):新給与制度のスタート
