人事院勧告に基づき、国家公務員(自衛官含む)の給与が引き上げられる場合、その効力は「その年の4月1日」に遡って適用されるのが通例です。
しかし、国会での法改正(給与法の成立)は通常11月〜12月頃になります。
では、「4月から法改正までの間に退職した人」はどうなるのでしょうか?
「もう組織の人間じゃないから関係ない」と諦める必要はありません。退職者であっても、遡及(そきゅう)して増額分を受け取る権利があります。
依願退職・定年退職・任期満了退職を問わず、4月1日から給与法改正の施行日(通常は11月〜12月)までの間に在籍していた期間分については、給与増額分の「差額(遡及分)」が後日支給されます。
さらに重要なのは、基本給(俸給)のアップに伴い、「退職金」も再計算され、増額分が追加支給される可能性が高いという点です。
1. なぜ「辞めた人」にもお金が出るのか?
仕組みは単純です。法律が「4月1日から給料を上げます」と決まった以上、4月〜退職日までの期間、あなたは「本来もらえるはずだった額より少ない給料で働いていた」ことになります。
国はその「払い足りなかった分」を、退職後であっても精算する義務があります。これを「給与改定に伴う差額支給(遡及支給)」と呼びます。
対象となる主な手当
単に基本給(俸給)だけではありません。俸給月額をベースに計算される以下の手当も、すべて再計算されます。
- 俸給(基本給):在職していた月数分の差額。
- 期末・勤勉手当(ボーナス):6月(または12月)に在籍してボーナスを受け取っていた場合、その計算基礎となる俸給が上がるため、ボーナスの差額も支給されます。
- 地域手当・広域異動手当:俸給額に連動するため、これらも増額されます。
- 超過勤務手当(残業代):時間単価が上がるため、再計算されます。
2. 最大のポイント「退職金」への跳ね返り
毎月の給与の差額は数万円〜十数万円程度かもしれませんが、最も影響が大きいのは「退職手当(退職金)」です。
自衛官の退職手当は、基本的に「退職日の俸給月額 × 支給率」で計算されます。
もし、4月に遡って俸給表が改定されれば、「あなたの退職日の俸給月額」も事後的に書き換わります(増えます)。
| 項目 | 改定前の処理(退職時) | 改定後の処理(遡及) |
|---|---|---|
| 退職時の俸給 | 例:300,000円 | 例:305,000円 (5,000円アップと仮定) |
| 退職金計算 (支給率50ヶ月分と仮定) |
300,000 × 50 =1,500万円 |
305,000 × 50 =1,525万円 |
| 結果 | 支給済み | 差額「25万円」を追加支給 |
このように、基本給が数千円上がるだけで、退職金総額には数十万円単位のプラスが発生します。これが支払われないと大問題になるため、防衛省は確実に計算して追加支給を行います。
3. 手続きと支給のタイミング
「自分から請求しないともらえないのでは?」と不安になるかもしれませんが、基本的には部隊側(会計隊・業務隊)が処理します。
① 手続きは必要か?
現役隊員とは異なり、退職者はすでに部隊を離れています。そのため、以下の対応が必要になる場合があります。
- 口座の維持:給与や退職金が振り込まれた銀行口座は、差額が振り込まれるまで(翌年の2月〜3月頃まで)解約しないようにしてください。
- 「同意書」や「請求書」の返送:元所属部隊から「給与改定に伴う差額の支給について」という案内文書が自宅に届くことがあります。これに振込先などを記入して返送する必要があるケースが多いです。住所変更した場合は、必ず郵便局の転送届を出しておきましょう。
② いつ振り込まれるのか?
現役隊員への遡及支給よりも、事務処理の関係で1〜2ヶ月遅くなるのが一般的です。
- 法改正成立:11月〜12月
- 現役隊員への支給:12月のボーナス時期、または1月給与時
- 退職者への支給:早くて1月、遅ければ年度末(2月〜3月)になることもあります。
4. 注意点:ごく稀に「対象外」あるいは「減額」も?
マイナス改定のリスク
近年は給与引き上げ(ベア)が続いていますが、デフレ期には「給与引き下げ」の勧告が出たこともあります。
もし「給与引き下げ」が遡及適用された場合、理論上は「払いすぎた給与の返還」を求められる可能性があります(ただし、法改正で「退職者は調整しない」等の特例措置が取られることもあり、ケースバイケースです)。
懲戒免職の場合
懲戒免職で退職手当が支給されていない場合、当然ながら退職金の差額は発生しません。ただし、在職期間中の「給与の差額」については、労働の対価として支給される権利があります。
5. まとめ:朗報を待て
令和7年(2025年)の人事院勧告もプラス改定(給与アップ)が見込まれています。
この期間に退職された方は、新しい生活で忙しい時期かと思いますが、冬から春にかけて元部隊から届く「差額支給のお知らせ」を楽しみにしていてください。
それは、あなたが最後まで日本のために尽くした任務への、正当な対価の一部です。
書類が届いたら放置せず、速やかに返送することをお忘れなく。